4343で聴くバンドネオンとチェロ

 凄まじいエネルギー


 思えば、こうした楽器のもつダイナミックなエネルギーの放射を、よりリアルに再現するために有利なユニットが『コンプレッション・ドライバー』で、これに適応するホーンを組み合わせたときに得られる世界に多くの愛好家が魅了されてきた。

 が、扱うエナジーが半端なくそもそも業務用として開発された背景を無視したハンドリングでは、ノイジーで中域の張り出した、『ジャズ専用』システムになりがちだった。

 昭和の時代には『ジャズ喫茶』やバー、クラブで大型のホーン+強力なコンプレッションドライバーを擁したシステムを至近距離で聴くという倒錯した世界でトリップするという行為にハマり、音の麻薬の依存症、中毒になっていく御仁も少なくなかった。あくまでも個人の趣味の問題なのでそれを否定するつもりは無い。他に選べる楽しみが現在のようにあれこれ用意されていない時代でもあったのだ。

 本来の使用法とは異なる、そうした『爆音』の世界で、サックスやトランペットが、リアルサイズを超えて『拡張』『ブースト』された、デフォルメに耽溺する、という姿は理性を失わずに踏みとどまれた音楽愛好家に『別の道』を模索させることになった。その結果として、『至近距離モニタリング』が常態の、スタジオモニターの中から家庭でも使えそうなシステムを発掘することにたどり着くことになった。

 BBCモニターや、JBLのSTUDIO MONITOR シリーズに注目が集まることになった経緯だ。

 ここで最大の間違いが起こった。業務用モニターシステムが、メーカーの想定していた標準的なハンドリングのアプローチを省略して、バランス調整なしの『素の音』をS/Nがいい、ノイズが少ない、と言い始め、イコライジングの『難関』をあえて無視することで『誰でもいいアンプを使えば鳴らせる』という悪魔の囁きで売り上げを伸ばしていったのだ。商業主義が最優先されてしまった……    というわけで、オーディオマニアの方々はケーブルやアクセサリーには莫大な投資しても、イコライザーを使いこなす技術が、ほぼ皆無という状況が固定化してしまった。イコライジングなしでいい音を探し求める=幻想を追い求める放浪をさせておいた方がモノは売れるだろう。自分が使えない機器の評価は認知バイアスの塊となってしまうのが人の弱さで、ここを乗り越えた人だけが再生音楽のユートピアに入っていける。

 ノーコントロールの高価なカルト・システムは立派な機器のディストピアで、ギラギラした喧騒の世界から永遠にぬけ出せないだろう。

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