愚見数則

 夏目漱石という巨峰


 愚見数則を読んだ。己の矮小さに恥いるばかりで言葉を失う。世界、そして日本は危ない曲がり角にいよいよ到達してしまった。貴重な情報発信者が、暗殺されたように突然亡くなった。どこの誰とは言わない。

 我々は、大きな流れに漂う儚い生き物にすぎない。戦う相手を間違えてはいけないのだ。守るべき存在は、手の届く範囲にしかいない。

〈 鶴は飛んでも寝手も鶴なり、豚は吠えても呻っても豚なり、人の毀誉にて変化するものは相場なり、直打にあらず、相場の高下を目的として世に処する、之を才子と云う、直打標準として事を行う、之を君子と云う、故に君子には栄達多く、君子は沈淪を意とせず。

 平時は処女の如くあれ、変時には脱兎の如くせよ、座る時は大盤石の如くなるべし、ただし処女もときには浮名を流し、脱兎稀には漁師の御土産となり、大盤石も地震の折には転がる事ありと知れ。

 小智を用いる勿れ、権謀を逞しうする勿れ、二点の間の最捷径は直線と知れ。

 権謀を用いざる可らざる場合には、己より馬鹿なる者に施せ、利欲に迷うものに施せ、毀誉に動かざるる者に施せ、情に脆き者に施せ、御祈祷でも呪詛でも山の動いた例はなし、一人前の人間が狐に誤魔化さ縷々事も、理学書に見えず。〉……

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