一生忘れない瞬間

 ビルトインネットワーク……

 乗り越えられない壁

 親友宅のJBL。核にJBL、E130。もはや新品のD130が手に入らないという時で、そう、もう22〜23年くらい前の話だ。私も大型のプレーンバッフルでこのE130+2405の組合せを使っていたことがある。タンノイ、カンタベリー15をずっと愛用してきた彼が、このシステムに入れ替える時は、彼の人生において激動期であり、今だから笑って話せるのだが当時は側から眺めているだけで胸が痛くなり、もらい泣きしてしまうような状況だった。
 20年以上の、丁寧なエージングが進み、このシステムは理想的なサウンドを奏でている。ビルトインネットワークを持たないが故の鮮明でフレッシュな響き。絶対にこのタイプでなければ出ない世界だ。
 以前、このシステムをオールマッキントッシュのワンブランドで鳴らしていた音を聴いた夜、私は自宅の音を聴いて死にたくなった。
 当時、自宅には二つのシステムがあったのだが、どちらもビルトインネットワークを持っているマルチウェイのシステムだった。当時から、まだ未熟ながらイコライザーを駆使してコントロールをし、自己満足の世界で胡座をかいていた。
 が、親友宅の圧倒的な高S/Nサウンド、圧倒的情報量、解像度の高さ、トランジェントの良さには遠く遠く及ばない世界だった。自宅の音が大袈裟に言えば『ラジカセ』のように聴こえた。
 翌週から、我が家ではスピーカーシステムを完全マルチアンプ化する方向へシフト。ビルトインネットワークとおさらばする決断をせざるを得ないところへ追い込まれたわけである。

またあの瞬間を思い出した


 久しぶりに MAGNEPAN に戻した。


 昨夜も聴いていたこれを、そのまま聴いてしまった……    違う曲にしておけばよかったのだが、つい。
 まず、ビルトインネットワークの素子は数ヶ月にわたり通電しておらずコンデンサーは完全に放電状態。で、当然ながらボソボソ、スカスカ状態。あっ、と思った時は遅い。
 ボリュームをあげ、 SPL のバランスを変えて誤魔化そうともがく。まあ、無駄な抵抗である。ため息をつきながら2時間は待つことにする。
 2時間後の予想はつく。ぐいぐい覚醒し、どんどん音は良くなっていく。だが、ビルトインネットワークを通過した音という独特のフィルターの存在を消し去ることは不可能なのだ。
 パワーアンプとスピーカーユニットがダイレクトにつながっている、ということのメリットはあまりにも絶大で、これを通常のシステムで乗り越えることは不可能だと思っている。

 MAGNEPAN をマルチアンプ化しよう。だが、ユニットのインピーダンスの問題がありそう簡単にはいかないはずで、こっそり関係者に相談してみるしかない。大改造になってしまうが、このシステムには唯一無二の美点があるので一生使う予定。なので、修復不能の改造になるが、ローンで買ったわけでもないのであくまで自己責任ということで実行しよう。

 ビルトインネットワーク・レスのサウンドは、ライン録音のシンセサイザーの圧巻のクォリティでぶっちぎり状態となる。純粋な電子音なのでもう誤魔化しようがない。
 レーザービームのようなストレート感は、ビルトインネットワークという迷路のような、あまりにも長く複雑なトンネルを通過させると、昔のカセットテープみたいになってしまうのだ。「んなこたぁ当たり前やがな」と、分かってはいるのだが自分の耳で毎回検証させられるのも辛いものだ。



 MAGNEPAN のビルトインネットワークはこんな可愛いものではない。これを通ることで付加される雑多な歪はミクロ的であっても重層するイメージだ。日常的にネットワークレスの音を聴いていると、聴いた瞬間にわかるこのフィルーターの存在感


 フルレンジユニット+ツイーター(コンデンサー1個で低域カット)というこの小さなシステムだがトランス系の音楽には最高の音質、絶対的な高音質、ハイフィデリティぶりで The 下剋上である。


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